訓練しやすいタスクを設計するに当たっては動物の自然な性向にタスク要素を合わせる必要がある。手掛かり刺激の場所と反応(行為)の場所が一致していると学習が容易である。例えば、ふたつの刺激をスクリーンに提示してどちらかを選ぶ場合は、手元にあるふたつのレバーからひとつを選ぶより、スクリーン上の刺激にタッチする方が良い。タッチスクリーンはこの点で有利である。 また、反応の場所と報酬付与の場所とが一致していると学習が容易である。この点、サルを対象とした最近の実験の殆どでは、反応とは関係なく口元のひとつのチューブから液体報酬が与えられ、不自然である。齧歯類で使われる反応ポートを用いた方法(左右のポートのうち正しい方のポートに鼻を突っ込むとポート内のチューブに液体報酬がでる)はこの点で優れている。サルでも用いられている、口の周りに置かれた複数のチューブからひとつを選んで舐めることで反応し、選択が正しければ選択したチューブから液体報酬が出る方法(Padoa-Schioppa, Assad, Nat Neurosci 11:95, 2008)は、訓練をより容易にすると期待される。 パソコンの導入が進む前によく用いられたウィスコンシン一般テスト装置(サルのテストケージの前に報酬の餌を入れる複数の穴を持つテーブルがある。テストケージとテーブルの間には上下に動く扉があり、試行ごとに開かれる。餌穴の上に物体またはカードを置く。)では餌(例えばレーズンの粒)が正しい反応標的物体/カードの下に隠されており、手掛かり刺激、正しい反応、餌の付与の3要素が空間的に一体化している。また、3要素が完全に一体化した「目前におかれた複数のピーナッツからひとつを選んで食べることができる。ピーナッツの殻の色が中に実が入っているかどうかの手掛かりになる」課題では、たった一度のエラーの後に学習が成立する(Jarvik, J Comp Physiol Psychol 46:390, 1953)。 動物は新規な刺激により興味を持つ一般的傾向があり、そのため、物体・色・形などを刺激に用いる場合は、遅延見本合わせ課題よりは遅延非見本合わせ課題の方が訓練が容易である(例えばBoschin et al., PNAS 112:E1020, 2015, Fig 4C)。ただし、空間的な課題でサルが新規嗜好を示すかどうかは不明。これらの要素のそれぞれがタスク訓練への影響を大きさは動物種により異なる。マーモセットについてのデータは乏しい。
訓練の難しさとは別の話題だが、反応時間を正確に測る必要がある場合は、反応の運動内容を毎回なるべく同じにする必要がある。そのため、ゴー・ノーゴー課題では、試行の初めにレバー押しをさせておき、レバー放しで反応させることが多い。反応にレバー押しを用いると反応前の手の位置によって反応時間が変わってしまう。反応前の手の位置を統制するためには、ひとつのレバーを押すと試行が始まり他のレバーを押すことで反応させる必要がある。タッチスクリーンを使う場合は、スクリーンの下にあるレバーを押すとタスクが始まりタッチスクリーン上の刺激へのタッチで反応させる。ただし、反応レバーまたはタッチスクリーン上の刺激位置が複数ある場合は、開始レバーから反応レバーまたは刺激位置までの距離・方向によってリーチに要する時間が変わるので、直接の比較はできない。 ウィスコンシン一般テスト装置では刺激として実際の物体/カードを用いたが、実際の物体/カードを用いる場合は実験実施中についたしみなど、実験者の意図とは異なる手掛かりをサルが用いて弁別を行う可能性がある。コンピュータ制御でスクリーンに刺激を提示する方法はこのような可能性を排除できる。 長期間の訓練の中で、動物は実験者が想像しなかった思わぬ方略(遅延反応課題で遅延期に体を次の反応側に寄せておくなど)を生み出してタスクを解決することがある。動物の身体情報をなるべく多く記録してこれらの可能性を潰す必要がある。
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文責: 革新脳マーモセット脳機能データベース検討ワーキンググループ タスクセット検討小委員会 (中江健、宮本健太郎、中村克樹、田中啓治)
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