計算論的神経科学(Computational Neuroscience)は数理的アプローチを用いて脳や心を研究する分野です。計算論的精神医学(Computational Psychiatry)は、この中で統合失調症などの精神医学を扱う領域で、同名の国際雑誌が刊行され近年国際的にも認められる分野となっています。一方で、脳や心の疾患ですがアルツハイマー病やパーキンソン病といった神経変性疾患、てんかんや脳卒中など神経内科学(Neurology)に属する疾患に関して、計算論的な立場からまとまった分野としての取り扱いがなされていません。Computational Neurology研究会ではこれらの疾患に対する新たな分野を立ち上げることを目指しています。具体的な方向性としては、2ヶ月に1回の開催で日本における関心を調査し、コミュニティを作成することを目標にしています。学生、研究者の参加を歓迎します。原則的にオンラインでの開催を行う予定です。
共催:日本学術振興会 学術変革領域A「行動変容生物学」、自然科学研究機構・生命創成探究センター(ExCELLS)
オーガナイザー:矢田祐一郎(名古屋大学 大学院医学系研究科)、近藤洋平(名古屋大学 大学院医学研究科)、中江健(福井大学 学術研究院工学系部門)
2025年7月9日 第17回Computational Neurology Clubの概要を公開
講演者:互 健二(量子科学技術研究開発機構)
開催場所:Zoom
日時:10/21(火) 10:00〜11:30 JST
タイトル:認知症バイオマーカーの階層的開発:画像診断から血液検査への展開
概要:認知症の早期診断・治療効果判定において、背景病理の正確な評価は極めて重要である。我々は、アルツハイマー病(AD)および非ADタウオパチーの両者を高感度に検出可能な新規PETリガンド18F-PM-PBB3(florzolotau)を開発し、これを基盤として統合的なタウバイオマーカー(BM)開発を進めてきた。 18F-PM-PBB3は、ADのみならず進行性核上性麻痺(PSP)等の前頭側頭葉変性症(FTLD)においても90%以上の感度・特異度で健常者との鑑別を可能とし、病理学的検証により高い一致性が確認された。この画像BMを Reference Standard として、我々は新たに血液BMの開発に着手した。特に、タウの断片化を考慮したmid-pTau181アッセイを構築し、超高感度デジタルELISA技術Simoaを用いた測定系を確立した。その結果、血液mid-pTau181は従来のアッセイと比較して、PETで捉えられる脳内タウ蓄積とより強い相関を示すことが明らかとなった。 現在、AMED脳統合プログラムの支援を受け、多施設連携体制MABBを基盤として、タウのみならずTDP-43、α-シヌクレイン等の認知症関連病理を包括的に評価可能な血液BMシステムの開発を進めている。本システムに基づいた、PET検査の適応症例選択から、抗アミロイド薬等の疾患修飾薬の治療反応性予測まで、認知症診療の各段階で活用可能な階層的アプローチの実現を目指している。画像と血液の相互補完的なBM開発により、認知症の精密医療実現に向けた新たな診断プラットフォームの構築が期待される。
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